ツレが胃カメラを飲んだ。
例の麻酔ゼエリィを喉に溜めた時。
むせて、涙が出てきた。
目を上に向けたまま、手を伸ばして何かを訴えている。
あ、ハンカチか。どこにあるのかな。
ポケットから私のヨレヨレのハンカチを差し出した。
受け取って今、使っている。
鮮やかに思い出した。
緩和ケアのホテルのような一室。
母一人に二人の担当看護師さんがいた。
一緒に寝泊まりしてた頃。
ベットに寄り添っていると、
むせたらしい。
私のハンカチを手に持たそうとしたら、
イヤイヤをした。
たぶん、息子のハンカチの「不衛生」な使い方を長年見ているからだろう。
様子を見ていた若い看護師さんの柔らかい笑顔に部屋が包まれ、清潔なタオルが来た。
一月ほどして、彼女たちから封書が届いた。
手書きで、気遣いの言葉が並んでいた。
残された家族のためのカンファレンスもあると書いてあった。
つい昨日のことのように、今もこの胸にある。
それが、こんな具合に出てくるのか。
ときどきツレに聞いてしまうことがある。
決まって憂鬱な気分な時に、ハンカチのように出てくる。
初めから家族でもない。親戚でもない。
なのに彼女は、なぜ、ここに居るのかな。
とても不思議でならない。
「俺のこと、好きなのか?」
「そうでなかったら、一緒にいないよ」
当たり前か。
ただ一つ確かなのは、不思議だなあというその感覚。
それと、嬉しいという感情。
ぼんやりとした頭の片隅で。こんな文章は きっと有罪判決の時には、
有力な証拠品になるんだろうなあと思う。
だけど、きっとそのうち、こんな気分は、蒸発して無くなるんだろうな。
どうしてって、流れる時は、蒸発しながら熟成してゆくのだろうから。
0 件のコメント:
コメントを投稿