9/13/2015

吉川英治の新刊

▼吉川英治さんはと言えば、国民的な人気を博す大衆小説の名手として有名です。
亡くなって、はや半世紀が過ぎました。
新聞紙面に踊る「宮本武蔵」「三国志」「私本・太平記」などに、世間中が一喜一憂しました。
今なら、NHKの朝ドラといったところでしょうか。

▼若い頃のご苦労の様子は、評伝などからもうかがえます。作家デビューは30歳過ぎとのこと。
みずみずしい筆致は、あたたかくもあり、「朝の来ない夜はない」などの名句は今も人々の心に明かりを灯つづけています。苦労を重ねられた吉川さんのあたたかい眼差しは、小説の人物を通して大衆に届いていたのでしょう。

▼ところで、戦後出版された本のなかで、一番多く語られた歴史上の人物と問われたら、誰がベスト・ワンでしょう。
これは、だいぶ前に終了した人気テレビ番組「知ってるつもり!?」(司会、関口宏さん)で放送されたことです。
家康や秀吉などでなく、意外に思われるかもしれませんが、鎌倉時代の親鸞聖人でした。
ほとんど私たちは自覚することなく、親鸞思想を血肉として生きているのかも知れません。
「竜馬がゆく」などで名高い作家、司馬遼太郎さんは「鎌倉時代というのは、一人の親鸞を生んだだけでも偉大だった」と書き残しています。

▼これまで、多くの著名作家が、この東洋の聖者を主人公に選び小説にしてきました。
その人気は、大正、昭和から平成になっても変わらないようです。
抗し難い魅力が親鸞聖人にあり、作家を動かすのでしょうか。
なかでも、吉川英治さんは、実に3度、小説作品にしています。
これまで、最も親しまれてきたのは、講談社文庫の小説「親鸞」でした。
ふと見た広告で、この「親鸞」が、単行本で新たに出版されることを知りました。
最初に吉川さんが親鸞聖人の小説を新聞紙上に執筆されたのが、大正11年(1922)。
あれから、おおよそ100年。
「深遠無二の哲学思想家」「慈悲のかたまりのように優しい」と評される親鸞聖人。
苦労人であった吉川さんの大衆へのあたたかい眼差しは、どうしても親鸞聖人を必要としたのかもしれません。

(写真は、「吉川英治 親鸞 新刊 15周年」で検索したもの)


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